このカンファレンスには1人、1,295ドル(約11万円)のチケットを買わないと入れないが、誰でもが買えるわけではない。スペースや試食の関係から800人以上は会場に入りきれないので、CIA側で参加者を料理人、料理研究家、食ジャーナリスト、ホテル・レストランや集団給食のメニュー開発者や食材購買関係者に限定している。参加費には2日半の食事も全て含まれており、1日目、2日目の夜、3日目の昼はマーケットプレイスと称して、チームオブジャパンの超一流シェフが腕を振るう。講義や料理の実演はゼネラルセッション、セミナー、ワークショップと講義スタイルによりジャンルが分かれており、全部で67のセッションが行われた。
ゼネラルセッションは350名が着席できるメイン会場で行われ、入りきれない人は他の教室のモニターで見ることが出来る。それ以外のセッションは同時進行で学校中の教室で行われており、参加者は興味のあるテーマのセッションに申し込んで早い者順で参加することが出来る。私は4つのセッションのモデレーターという進行役を仰せつかり、微力ながらカンファレンスに協力した。その中でもメイン会場で行われた「日本のカジュアルフード」と題した講義では大観衆の前でしかも英語でスピーチするのだから、さすがの私も久し振りに腹筋が痙攣するほど緊張した。その他のセミナーやワークショップは20人〜30人の規模でしかも料理の実演があるセッションだったので、参加者と和気藹々と楽しく進めることが出来た。
今回のカンファレンスで特筆すべき点は、どの料理人もアシスタントを連れて行くことが許されなかったことと全ての料理人、モデレーターが無給のボランティアだったことである。そもそもCIAはNPO法人なので利益を目的としない学校法人であり、学校の運営はホテルや食品メーカーから毎年50億円近くの寄付が寄せられる。今回のカンファレンスは日本側で約20社の企業から合計8千万円近く寄付して頂いた。また、アメリカ側でも同じように寄付が集められ、全体的にはこのカンファレンスに2億5千万円ほどかかっている。
マーケットプレイスでは39名のチームオブジャパンの料理人たちが、スポンサーの食材などを使い200名分の試食プレートを計3回提供した。料理人たちを手伝うのはCIAの教師や生徒たちであるが、コミュニケーションが難しいことと、下手に手伝わせて変なことになってしまうと困るので、下ごしらえからブースでの料理提供まで全てを超有名料理人自らが行った。その結果、これほどまでに本格的で美味しい料理は日本でもそう食べられないのではないかと思えるほどの完成度の高さであった。
厨房ではその料理人の情報交換や会話もまた今回のカンファレンスの副産物で、非常に興味深いものであった。ソロモン流でも放映されたが、ラーメンのテレビチャンピオン森住さんの作る醤油を菊乃井の村田さんが試食したり、スープをオテル・ドゥ・ミクニの三國さんが試食したりして、いいところを称えるなど、普段ではありえない光景が垣間見られた。今回のカンファレンスを通して、料理人の方々はお互いに大いなる刺激を受けられ、もう一度自分を見つめ直すいい機会になったと言われる方もおられたし、若手や2代目が活躍しているのを見て、帰りの飛行機の中で60歳の引退を決めたと言われる方もいた。我々委員やモデレーターは、今後のFTA(自由貿易協定)やTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が各国で進むことを考え、農業を含めた日本の食のあり方に協力が出来ればと感じた人も少なくなかった。私も現在、兵庫県の成長戦略をお手伝いさせて頂いているが、今後の食産業に役立つ学校を設立できないかと奔走している次第である。
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